忘れ物はないね?:2011-12-14

『忘却』とは、忘れ去ることである。
人は『忘れる』という能力がなければ、絶望で生きていけないそうだ。
しかし、私にはそれらの忘れ物が大変愛おしく、また、そういった忘却の 中に存在する、私がかつて此処に存在していた証拠のかけらのようなものが、
どこか遠いところへでも散らばって、ある日ひょっと誰かのしゃっくりを止めたり
犬に遠ぼえをさせたりできないか、などと思うのである。
だから、私はこの日記を書くことにする。
この日記はその日にあった笑えることや、怒れることや、
その日に思い出した面白いことや悲しいことを記すためにある。どんどん忘れていくTwitterはコチラ

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2011年12月14日(水)忘れもの

今年も残すところわずか半月。
寒さも増して、師走ムードも色濃くなってきました。
昨日は、とあるプロジェクトの本番録音でした。
この仕事は、3月11日のまさにあの時刻にスタジオでデモ作業をしていたもので、あの日、ちょうどその日の作業を終え、できた2mixのデータをコピーしてもらい、「おつかれさまでしたー」などと言っている時に地震は起きたのでした。
それから8ヶ月。
もしかしたら、このままこのプロジェクトはなくなってしまうかもしれない、と思ったこともありましたが、お話はちゃんと進み、昨日本番録音を迎えることができたのでした。
まだ内容を告知することができませんが、ちょっと通常ではないようなかたちのもので、録音時間もほぼ12時間。
本番を終えてみれば、演奏も歌い手さんもすばらしく、当初想像していたものをはるかに越えた、すごく楽しい作品ができました。

このプロジェクトの記憶は、震災の日の記憶と直結しているので、この8ヶ月は長くもあり、あっという間でもあった、というなぜか時間の流れの感じ方が普通とは少しちがっていて、こうして無事に作品として出来上がったことはとてもうれしいのだけど、「あー!やったー!」という、ひとつの仕事が終わった区切りとか達成感とはまた違った、少し複雑な感覚があります。
これがひとつの区切り、と思ってしまうのは、「震災の日から一区切りと思ってしまうぐらいの月日が経ったんだ」と感じてしまうことを意味しているような気がするからです。
確かに月日は経っているし、徐々に復興に向かってはいるけれど、それによって生まれた苦しみや悲しみやきびしい現実にはまだなんにも区切りなんかついていない。
というか、そもそも区切りなんてない。
この感じは、まるで、左足はぬかるみのまま、右足だけもうきれいに洗って新しい靴下と靴を履いているようで、このどことなくやりきれなくて、座りの悪い感じは、そのまま私の体や気持ちとして私の中に続いています。

そんなにたいした人生経験があるわけじゃ全然ないけど、こんなイイカゲンな私でも、清濁併せ飲んで歩いていくのがこの世の中を生きるリアルである、そして、自分の力ではどうにもできないものがある、というのは、年を重ねるごとにヒシヒシと感じるわけですが、と同時に、でもやっぱり「私」として、いやなもんはいやだし、これは絶対許せん、と思うものはやっぱり許せない、と自覚しているのもヒジョーに重要なことだと思うので、その点は自分の中で常にはっきりわかってなきゃな、とも思う昨今です。

右足だけで進みたくとも、左足がぬかるみのままではなんともならないし、かといって、左足のぬかるみからやみくもに足を引き抜いて私は行くからじゃーねー、と行ってしまえばいいかというとそれはできないわけで、ぬかるみがちゃんと乾いてなくなり、道ができて初めてちゃんとまた歩いていけるようになるまで、なんとか耐えてその方法を見つけなければと思う。

モノゴトを忘れる、というのは、人間にとってはある程度大事なことなんだし、忘年も大事だと思うけれど、忘れちゃいけないことまで忘れちゃったらそれこそ忘れ物バカなのです。
なので、忘年会では忘れても差しつかえのないことだけ、ドードーと笑って忘れましょう。
いつか、忘れたくても忘れることのできない左足のぬかるみが、乾いて道になる日が来ますように。
遠そうだけど。
おばあさんになった時にも、こういうふうに思ってきた、ってことを覚えていられるようにしたい。

12月18日日曜日の下北沢leteは今年最後のライヴです。
毎度のことながら、おもてなし、というほどたいしたことはできないと思いますが、心を込めて、赤ちょうちんぐらいにはなれるように演奏しますので、どうぞみなさま遊びにいらしてください。

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[link:1267] 2011年12月17日(土) 15:34

2003年6月16日までの日記


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